発起人 すはま会理事長
小岩井雅彦インタビュー

福祉のプロフェッショナルに
なってほしい

私が働き始めた当初は専門性が皆無であった

Q:今までのご経歴を簡単に教えていただけますか?

元々私は大学4年生から両親が立ち上げた軽費老人ホームで働き始めて、今は理事長の職について30年くらいになります。当初は利用者が数名で獲得に奔走していました。またその当時は老年学が進んでいない時代だったのでみんなでNHKの朝の番組を見ながら勉強していました。

常に先んじてICT化への挑戦を続けてきたすはま会|日本初の栄養管理システムの導入

Q:そのころにエビデンスの重要性を感じ始めたということですか?

そうです。なので早くからICT化への取り組みは進めていました。40年前には日本で初めてとなる栄養管理システムを導入し、20年前には情報伝達のシステムを自社での開発に踏み切りました。しかし、そうした中で専門性だけではうまくいかないということが分かってきたのもこのころでした。

ただし専門性がついてきても利用者のための「福祉」でなければ意味がない|介護と福祉の違い

Q:どんなことがあったのでしょうか?

エビデンスを重視しすぎると、利用者へのサービス提供がただの作業になってしまいます。あくまで我々は利用者の生活をよりよくすることを目指しているので、作業的になってはいけないと感じ始めました。

Q:その中で介護と福祉についての違いについても意識されるようになったのでしょうか

まさにそうです。介護というのは、例えば「利用者様を車いすへ移乗させる行為」だけをいうことだと思っているのですが、福祉というのは「移乗するときに利用者様へなんと話しかけたら怖くさせずに済むか」などコミュニケーションを含めたトータルケアの考え方になると思っています。

Q:それは逆に専門性がないといけないのではないですか?

専門性の定義の違いかもしれません。福祉業界での専門性は医療知識があるだけでは不足しており、病気や不調を抱えた利用者様に対してどういうコミュニケーションやケアをすべきかが大切となります。そのためには職員が一丸になって利用者に対してコミュニケーションも含めたサービスを提供し、安心を引き出すサイクルが重要だと感じました。

鳥の目に職員を引き上げられるシステムを作りたかった

Q:そういった思いが今回のシステムに詰め込まれているのでしょうか?

そうです。記録に忙殺されるのではなく、本当の意味で利用者のことを考えられるシステムにしたいと考えていました。いわゆる虫の目と鳥の目というやつです。どうしても毎日忙しくて目の前の業務に終始してしまうので、何とか利用者のことを考えるきっかけをシステムに担ってもらいたいと考えていました。そのためには、まず記録が簡単であることが絶対条件だと思いました。そして鳥の目の視点でPDCAサイクルが回る仕掛けである必要があると思いました。そして並木施設長が言うように多職種のコミュニケーションが活発になる機能があることが必要だと思っていました。

Q:なるほどですね。実際これだけのシステムを開発するとなると相当なご苦労もあったのではないですか?

もちろんありました。しかしそこは共同で開発したヨコハマシステムズさんがいたというのが大きかったかなと思います。

Q:具体的にはどんなことをしていったのですか?

ヨコハマさんとは最初にお会いしてから約3年くらいの歳月をかけて作りこんでいきました。毎週のように打合せをして議論を繰り返していきました。また、ヨコハマさんはシステムの会社とは思えないくらい職員と密接なコミュニケーションをとってくれていました。24時間体制で何度も張り付いて実際の業務についてみてもらったり、うちの職員とも密接にコミュニケーションをとってストレスを解消するサービスを開発してくれたことに感謝しています。

福祉業界も挑戦し続けなければならない

Q:最後に今後の展望について教えていただけますでしょうか。

恐れずに変革し続けたいと思います。福祉の業界も当たり前ですがどんどん変わってきています。昔は訪問介護なんてなかったですし、高齢者と言っても上で85歳くらいでした。今では100歳を超える方もたくさんいらっしゃいますし、利用者や福祉も大きく変わっています。しかし、職員の働き方という意味では40年前とあまり変わっていません。来たる2025年、2035年問題や介護保険がこのまま続くのかといったこともあるので、我々としては今回のシステムも含めたICT化など新しい取り組みを絶えず進めていかなければと感じております。職員全員にスマホを支給するのもそうした取り組みの一環です。

そして何より、こうした取り組みは我々1法人だけでは普及していくものではありません。ほかの法人様とともに進めていきたいと思っています。だからこそ今回のシステムも自社だけではなくサービス化に踏み切りましたし、今後も社会福祉法人が考える社会福祉法人のためのサービスを提供し、福祉業界全体の助けになればいいなと思っております。


すはま会理事長 小岩井雅彦